それは雪がちらつき始めた12月初旬。国道13号の道端で熱心に何かを廻す小汚いオヤジ。20数年ぶりに見掛ける「ドン」のオヤジである。「ドン」の材料の米一升を刈和野から持参し、帰りに寄ってみる事にした。 |
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オヤジの周辺にあるのは「ドン」を作る筒状の鉄の容器と、その容器を下から炙るための薪をくべる入れ物、それに空気を送る手動式のブロワー、筒状に金網を張った蟹取りの仕掛のようなもの、そして山積の薪とナタである。 |
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早速持ってきた米を手渡す。オヤジは手際良く筒状の容器に流し込む。出来上がる過程で容器内部に相当の圧力が掛かるのか、オヤジは蓋を厳重に締め付ける。そして米が入った容器と隣にある手動ブロワーをゴムで連結する。どうやら筒状の容器についてるハンドルを廻せば、一緒にブロワーが廻る仕組みのようだ。「さっやるど!」の一声からオヤジの仕事が始まった。左手でハンドルを廻しながら、右足で薪を押さえ右手でノコギリ、ナタを器用に使いながら、薪を切り・割り次々にくべていく。ブロワーから送られた空気で瞬く間に薪は勢い良く燃え上がる。 |

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オヤジの年は60台後半。15才から始めてこの道50年だそうだ。住まいは武家屋敷で有名なみちのくの小京都「角館」。農閑期に「ドン」で各地を廻っているようだ。テキパキした動きと一緒にオヤジの話しは止まらない。政治・経済・哲学・文学・ヤクザから性病まであらゆるジャンルの話題で「話しっこ」を聞かせてくれる。オヤジ曰く、「この道50年。NHKさも出だし、テレビさだば何回も出だ」そうだ。その身なりはお世辞にも綺麗とは言えない、少し長めの「どんぶく」に汚い帽子のいでたちである。「「ドン」やってる人、秋田さ何人ぐらい居るもんだすか?」「俺入れで4人ぐれだべな。だども薪くべでやってるのは俺ぐれなもんだ」だそうだ。他の「ドン」はどうもガスか何かで作っているらしい。って事は、身なりはこんなんだけどこの道の第一人者かもしれない。オヤジの知識と記憶力は相当のもので、「せば、おめの年だば公民館の向えの○○ちゃんと同じくらいだべ?」俺の同級生の名前である。「何で分るんだすか?」「俺だば、何でも知ってるんだ。一回会えば忘れねものな」だそうだ。かなりやり手のオヤジである。 |
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そうこうしている間に、オヤジ「来たどっ!来たど!」「ちょっと待ってけれ!車で待ってるガギさ見せだいがら!」「ダメだダメだ待だれね!」オヤジにしか分らない、そのタイミングがあるらしい。オヤジの仕事がにわかに慌しくなり、一連の作業のクライマックスである。「良いがっ!行ぐど!離れれよ!」………「ドン!!」
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「ドン」の完成である。蟹取りの仕掛のような金網には爆ぜた「ドン」が一杯である。米を「ドン」にするレシピまでは聞けなかったが、どうも米を密閉した容器に入れ、下から直火で炙れば容器の中が高温・高圧となり、ある圧力まで達した時点で、開放してやれば「ドン!」の爆音と共に、米が「ドン」になるようだ。次にオヤジ見掛けたら是非この辺を聞き出したいものだ。
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「父さん。次はどごさ行ぐんだすか?」「せば、刈和野さでも行ってみれば良いべが」
暮れが押し迫まった師走の寒空の下、オヤジは鼻水すすりながら「まだ寄ってけれな」
「父さんも風邪ひぐなよ。まだな」久々に人情味ある人との出会いであった。
「ドン」のオヤジがんばれ!
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「ドン」のご用命は…
地域の祭りや幼稚園・小学校のイベント等へも出張するそうです。ご興味ある方は「DFE」までちなみに頂いたオヤジの名刺には「…街に花と緑を…」・・・いかしたオヤジだよ。
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